- 1.はじめに
私は、大学での専攻が地質学・鉱物学であったため、アルミニウム精錬企業在籍時代に、アルミニウムの原鉱石であるボーキサイト確保を目的として世界各地の鉱床を探査した。その後、所謂オイルショックによりわが国のアルミニウム工業は衰退したが、企業をはなれた現在、当時の資料をもとに何かをまとめておきたいと思っている。取り敢えずオーストラリアの鉱床について概説したい。
- 2.オーストラリアの地質学的特徴
オーストラリアにおいても世界各地にみられるような、Precambrian Shield(プレカンブリア紀の盾状地)があり、これが豊かな鉱物資源を生み出している。オーストラリアに産出する金、鉛、亜鉛、鉄及びウランの大部分は、このshield、特にArchaean、Lower Proterozoic、Carpentarianの地層・岩石中から産出する。その後、古生代カンブリア紀から新生代に到るまでの地層・岩石は石炭や種々の金属資源を胚胎しているが、ボーキサイトは第三紀に生成されたものが多い。
- 3.オーストラリアのボーキサイト鉱床の特徴
オーストラリアのボーキサイト鉱床は、その大部分が第三紀(Tertiary)のラテライト化作用(lateritization)に起因している。また、その母岩としては、Weipa、Gove等の大鉱床ではCretaceous及びTertiaryの堆積物のlateritizationにより形成され、Wessel Islandのものは、Precambrianの頁岩から生じている。西豪州のDarling Rangeの鉱床は、Precambrianの花崗岩、片麻岩及びその他の変成岩が母体となっている。Kimberley鉱床及びNew South Wales、Victolia、Tasmaniaの小さな鉱床は、古い時代の玄武岩のlateritizationでできたものである。
ボーキサイトの成因論は別の機会に譲るとして、オーストラリアのボーキサイトのタイプは、母岩がそのまま風化されボーキサイト化したものと、一旦母岩が溶解し再沈積したものとの2種類のタイプに大別される。前者は、KimberleyやDarling Range鉱床にみられるような岩塊状ボーキサイトであり、後者は、WeipaやGove鉱床にみられるような豆石状(pisolitic bauxite)である。
Carpentalia湾の周辺及び西豪州のDarling Rangeの大規模なボーキサイト鉱床が発見されて凡そ半世紀になるが、それ以来、オーストラリアのアルミニウム工業は、他の非鉄金属工業より格段の成長を遂げた。オーストラリアのボーキサイトの埋蔵量は、40億トン、全世界の埋蔵量の1/3を占めるといわれている。
- 4.鉱床概説
- 1)ウェイパ・ボーキサイト鉱床(Weipa Bauxite)
ウェイパ(Weipa)は、ヨーク半島の南部西岸にあり、Queensland州の都市から隔絶された位置にある。Cairnsの北東約360マイルの地点である。今でこそ種々のアクセスが整備されたが、当時、周辺はユーカリの疎林の続く無人地帯であり、陸路で行くには乾季でも四輪駆動のランドクルーザーが必要で、雨季に至っては通行不可能であった。Weipaは、モンスーン型気候に属し、雨季(11月~4月)と乾季(5月~10月)がはっきりしており、年間の降雨量は65インチ程度である。平均気温は、21~35℃程度である。
1970年当時、詳細なボーリング調査がなされたのは、Andoom、Weipa及びPera Headの3区域であるが、特にWeipaが有望視された。Weipa区域は、Mission RiverとEmbley Riverの2河川に挟まれた広大な河口を形成し、潮汐の影響が上流30マイルにまで及んでいる。海岸線は、急峻な崖をなしており、エバンスが海上の船から崖の色を見てこの地のボーキサイトを発見したといわれ、レッドクリフ(Reddish Cliff)と呼ばれるラテライト質の赤っぽい崖が特徴的である。
ヨーク半島の火成岩及び変成岩は、幅約40マイルのベルト状をなし、Mitchell RiverからTemple Bayまで約280マイルにわたって広がっている。この東縁は、Palmerville断層でHodgkinson BasinのPaleozoic sedimentと不整合をなしている。Carpentaria及びLaura Basinの中生代の堆積層は緩やかに西に傾斜し、この変成岩ベルトの東と西でこれを被っている。このうち、Weipaは、Mesozoic sedimentのzoneにあるが、Cainozoicとの間の比較的薄い地層にボーキサイトが存在すると考えられている。
ウェイパ鉱床は、その規模や埋蔵量において、しかも単一成因の鉱床として世界最大のものである。エコノミックグレードのボーキサイトがVrilya PointとArcher Bayの間500Km2にわたって広がり、その埋蔵量は20億トンを越えるといわれている。
ウェイパ・ボーキサイトは、数フィート(1~3フィート)の表土をカットするとその下30フィート程度まで、ほぼ厚さが一定のブランケット状に広がる鉱層をもつのが特徴である。鉱層の底部はiron stone呼ばれる鉄質ノヂュールと粘土層があり、さらにその下部にクレイとサンドの互層がある。ボーキサイト鉱の性状は、直径1mm~20mm程度の豆石(pisolite)状で、ヘマタイトの多い茶縞とギプサイトやクレイの多い白縞部分が、ちょうどチャイナマーブル状の同心円の互層をなしている。個々の豆石は、採掘の時点で発破をしなくてもばらばらになり、loose pisoliteとよばれる。マトリックス部分は、微粉状のクレイ分が多く、アルミナの製造用では、このクレイを水洗で除去し精鉱とする。また、バイヤー法では、一水和物(ベーマイト)が少なく三水和物(ギプサイト)が多い鉱石を良鉱とするが、後述のゴーブ・ボーキサイトよりやや一水和物が多い。また、一水和物は鉱層の上層側に多く、下側の三水和物の多い層と境界が明瞭であり、過去の地下水面と関連があるものと考えられる。いづれにしても、ウェイパ・ボーキサイトはアルミナ(Al2O3)分が50%またはそれ以上の高品位鉱であり、Weipaにあるアルミナ製造会社の名称から、通称コマルコ(Comalco)ボーキサイトと呼ばれることも多い。
- 2)オールクン・ボーキサイト(Aurukun Bauxite)
York半島は、広大な背斜構造の北端に位置し、中生代及びそれ以降の地層がゆるやかなアーチ状をなして背斜軸部分の花崗岩、変成岩を取巻いている。背斜軸部より西側は、大部分が白亜紀層であるが、Aurukun付近の海岸地域はそれより新しい第三紀層が分布し、ボーキサイトはこの第三紀層の風化によるものと考えられている。
Aurukunは、Weipaの南約50マイルに位置し、ブランケット状の鉱床が連続しているため、Weipa鉱床と産状は同様である。ただ、Weipaから南では、長石質砂岩、アルコース砂岩、石英質砂岩、上部白亜紀層の順に地層が現れるため、南部ヘいくほどシリカコンテントが高くなる傾向がある。このシリカは、石英質成分とともに粘土成分としても含まれておりバイヤー法では苛性ソーダ原単位を悪くするため敬遠されることが多い。したがって、Aurukun鉱床の埋蔵量は、推定鉱量8億トンといわれWeipa鉱床に匹敵するが、反応性シリカが多い点で難点をもっている。また、Aurukun地区を開発した企業の名称から、ティペラリー・ボーキサイト(Tipperary Bauxite)と呼ばれることもある。
- 3)ゴーブ・ボーキサイト鉱床(Gove Bauxite)
Gove鉱床は、Northern TerritoryのArnhem Landの東北端にあり、Darwinから東へ400マイルに位置する。Gove鉱床は、Gove半島の海抜約160フィートの台地上にある。この台地は穏やかな勾配で南東側へ傾斜しカーペンタリア湾に落ち込んでおり、対岸のWeipa鉱床との関連性を示唆している。これは古い時代の準平原のなごりと考えられている。準平原は海岸から内陸部に向って侵食されているが、表層部のlateriteをよく残している。Bauxite鉱床はこのlaterite帯の中に賦存している。
ゴーブボーキサイトの産状は、数フィート程度の有機質を含んだ黒褐色の表土の下に、赤~赤褐色のボーキサイトが10数フィート厚で存在し、その下部はラテライトと石英質の岩石及び粘土層に移行している。当然、ウェイパ鉱床と類似点が多く、pisoliteタイプに属するが、Weipa鉱床との相違点は、Weipaではほぼ鉱床の底部まで一貫して遊離した豆石(loose pisolite)であるのに対し、Gove鉱床ではボーキサイト層の下部は固結した豆石(cemented pisolite)からなっており、採鉱では下部の鉱石は発破作業が必要な場合がある。また組成的な相違点では、Weipa鉱の方がバイヤー法で溶けにくい一水和物(boehmite)の比率がGove鉱より高い。そのため、Gove鉱はバイヤー法に対しては有利な特徴を持っている。反面、Gove鉱は、ギプサイト質の粉鉱が多く水洗されずに使用されるため、使用に際しては粉塵対策が必要である。
ゴーブボーキサイトの品質はウェイパに匹敵するが、埋蔵量としては2億トン程度でウェイパの1/10程度と推定される。
- 4)カーペンタリア湾の海底鉱床
カーペンタリア湾を取巻く内陸部の堆積物は、ほとんどがCainozoicで一部Upper Mesozoicのものもある。これらの地層はWeipaから西に傾斜しカーペンタリア湾におちこんでいる。湾の水深は最大60フィート程度であり、Weipaの海岸から300m沖においてもボーキサイトの海底露頭がみられることから、対岸のゴーブ鉱床まで連続している可能性も推測される。過去に地殻変動により水没した可能性もあり、当時、Sydney大学等で海底の音波探査がおこなわれていた。しかし、現在のところ海底のボーキサイトは、経済的に採掘不可能と思われる。
- 5)ダーリング・レインジ近郊の鉱床(Daring Range Bauxite)
Darling Rangeの鉱床は、周辺に広がる広大な鉄鉱床も含めてPrecambrianの岩石がTertiary及びPleistocene時代に風化して生成されたものである。したがって、Precambrianの岩石が存在する地帯に分布する。品位は中程度(鉱厚は平均10フィート)であり産状はキンバレイ鉱床に類似しているが一方、堆積性のボーキサイトも認められ、Jarrahdale及びBoddingtonから南東方向へ谷に沿った2本のベルト状のpisolite鉱床が発見されている。
- 6)キンバレー・ボーキサイト鉱床(Kimberley Bauxite)
1960年代に西豪州の北部、North Kimberley地区において、ボーキサイト鉱床が発見された。この鉱床は、低品位グレードで初期の鉱量見積りではせいぜい100万トン程度と言われていた。しかし、1970年台の詳細な探鉱により埋蔵量は急激に増大し、推定埋蔵量は6億トンと見積もられるようになった(私もこの探査に参加した。)。
キンバレー鉱床は、Darwinの南西約600kmにあり、なだらかな台地の続く無人地帯である。Admiralty湾に北を接し、台地はゆるやかな起伏をなしており、高所で海抜1200m~1300m程度である。台地一帯はユーカリプタスやパームツリーの疎林が続き、全体は背の低いブッシュに被われている。河口付近の河川は、両側が切立った断崖を形成しており、上流は河岸線が不定と思われる河川につながっている。河川の水量は、乾季には極めて少ないが、雨季には相当量の水量がある(年間降雨量:76インチ)。また、内陸部の低地には、湖岸線不定の小湖またはポンドが点在している。
キンバレー地域は、Precambrian(Proterozoic)の地層に被われており、この台地(Mitchell Plateau)付近の岩石は、この時代の玄武岩である。したがって、この鉱床は、basaltのlateritizationにより生じたものであり、概して薄い表土の下はラテライト質ボーキサイトである。キンバレー鉱床は、ピソライトタイプではなく、ノジュール状あるいは大きな岩体で、母岩(玄武岩)のテクスチャをそのまま残してボーキサイト化いるものも多い。
品位は、概して低品位(Al2O3:30~40%前後)でラテライトに近い鉱石であるが、上記のように埋蔵量が多く、鉱体の一部には白色で殆どギプサイトからなるボーキサイト(White Bauxite/Al2O3:60%)が発見されている。
- 7)インベレル、モスベール近郊の鉱床(Inverell&Mossvale Bauxite)
Inverell及びGlen Innsは、New South Wales州にあり、Sydneyの北方250マイルに位置する。これらの周辺の小村Emmaville、Oakwood、Charry Hill等にボーキサイト鉱床がみられる。戦前、オーストラリア政府によって、この地域一帯の調査がおこなわれ、70~80万トンの鉱量を確認したようである。筆者が現地を訪問した時は、一帯は牧場地であり、ところどころにボーキサイト露頭がみられたが、iron‐richのLateriteと思われるものが多い。また多くは塊状である。サンプルの分析結果では、アルミナ(Al2O3)分が30%程度の鉱石が多く、経済性のある鉱床はすくないとみられる。
MossvaleはSydneyの南方70~80マイルの地点で、New South Wales州内にある。ここも探鉱がおこなわれただけで現在は牧場地帯である。ところどころにトレンチ(試掘井)跡が残っているが、概して低品位のボーキサイトである。これらの一部は、製鋼や窯業におけるフラックスとして使用されているようである。
- 5.おわりに
化学会社生活が長かったため地質のことはかなり忘れてしまっている。また、時間的制約のため、図解や説明が不十分なところが多くなってしまったことをお詫びしたい。今後、時間をかけてまとめ直したいと思っている。
図:1枚
(愛媛県技術士会会報Vol.11(2003)掲載)