気象予報士のすすめ

 かなり以前であるが気象予報士試験が始まったころ、私はこの試験に挑戦し、見事不合格となった経験がある。その後、テレビで気象予報番組が盛んになり気象庁出身の気象予報士等が活躍するようになったが、最近は若いイケメン男女の気象予報士が登場するようになり、その解説もなかなか上手でわかりやすくなった。私の場合は、それきりになってしまったが、その時に勉強した気象学(広くは海洋学、地形学等も含めた地球科学)の知識がその後大変役立っている。負け惜しみを言うわけではないが、何かを目的に勉強したことは、決して無駄にはならないと思う。

 通常、私たちが新聞・テレビで目にするのは、地上天気図であり、地表上の気圧が同じ地点を結んだ等圧線で示される。しかし、気象予報(気象学)では、同じ気圧の高度を結んだ等高度線(例えば850ヘクトパスカル)で示され、高度毎の高層天気図が作図されて、立体的に判断して気象を予測している(勿論、その他のデータも使用される)。気象予報士の実技試験では、このような高度(気圧)毎の高層天気図が何枚も出され天気を予想させるような問題が出される。いつ、どこで、どのような気象現象が起きるかを予測するのである。私は、ここでしばしば登場する「渦度・渦位」という概念を理解するのに悩まされた。

 気象現象の理解の大前提は、気流の収束・発散であろうと思う。何らかの事情で、気流がぶつかり合うところでは、必ず上昇気流が起き、逆に発散するところでは下降気流が起こる。気流は地面にはもぐり込めないからである。上昇気流が起きると露点の関係で雲ができ、雲ができると雨が降る確率が高くなる。低気圧の中心は上昇気流であり、高気圧の中心では下降気流が起きる。低気圧では雨天、高気圧では晴天とされる由縁である。

 もう一つ、大気の垂直断面に(湿度を含めた)温度差があり、上層に(乾燥した)寒気、下層に(湿度の高い)暖気がある場合は、大気の逆転現象が起きる。擾乱といわれるような急激な上昇気流が起きると積乱雲に発達し豪雨が発生したりする。大気のエネルギーは、その温度と湿度を考慮することが大切である。私は、ここで使われる「温位・相当温位」という概念を理解できたとき、気象現象を考えることが楽しくなった記憶がある。以上の2点を知っていると大概の気象現象は理解がしやすい。

 日本には、日本特有の気象の擾乱パターンがあり、日本の置かれている地理的、地形的な特徴に大いに関係している。それは、ヒマラヤ、シベリア、アジア大陸、日本海、太平洋等々である。四季を通じて災害と結びつきやすい気象現象は、日本海低気圧、台風、梅雨前線、秋雨前線、上層寒冷渦、日本海側大雪、オホーツク高気圧、やませ、ゲリラ豪雨等々である。これらそれぞれについて、その発生メカニズムを理解することは楽しいことである。

 なぜ日本付近には常時偏西風が吹いているのか(コリオリ力)、フェーン現象はなぜ起きるのか(断熱膨張圧縮・潜熱)、エルニーニョ・ラニーニャや南方振動はどうして周期的に起きるのか(貿易風・コリオリ力)、気候変動・異常気象の原因は何か(複数要因)、海流はなぜ起きるのか(エクマン輸送・コリオリ力)、北半球では低(高)気圧はなぜ反時計回り(時計回り)きなのか(コリオリ力)、高気圧の中心気圧はなぜ限界があるのか(傾度風の√式)、台風の進路を決める力は何か(偏西風、太平洋高気圧等)…等々。これらは、地球が球形であること、西から東に自転していること、地軸が公転面に対して傾いていてしかも僅かに歳差運動をしていること、太陽との距離の変動…等々と密接に関係している。これらのメカニズムが理解できると、子供の頃に還ったような愉快な気分になる。地球温暖化の原因は人為的CO2の排出にあるというのが定説であり多分そうであるが、原因の一部は上記の事象も関係しており、総合的に考察されるべきものである。

 昔は、天気予報は当たらないものとされ関心が薄かったが、最近の予報は気象衛星とスパコン(数値予報)の発達によって素晴らしく的中率が高まった。また、竜巻等に対応した局地予報の精度も格段に進歩した。

 私は最早気象予報士受験に再挑戦することはないが、技術士でかつ気象予報士の方がおられたら、(イケメンでなくても)カッコいいと思う。

(大阪技術振興協会会報No.452(2014.8)掲載)