ベンゼンによる土壌汚染について

    1.はじめに

 2010,2011年に土壌汚染対策法(以下、土対法)が改正され、「3000m2以上の形質変更時の調査義務化」、「自主調査の届出」、「汚染区域の分け方」等の変更がなされた。土対法の定める特定汚染物質による土壌汚染は種々のケースがあるが、最近、ガソリンスタンドの閉鎖に伴う土地売買に関連してトラブルが多く発生しているので、これに焦点をあて考察してみる。

 ガソリンスタンド等が原因で発生する土壌汚染を調べる場合は、主としてベンゼン、鉛、油分を対象として調査を実施することが多い。土対法では、土壌汚染物質(特定有害物質)として25物質が規制されているが、油という項目は定められておらず、油中の一成分であるベンゼンが唯一の規制物質となっている。(油類に関しては、「油汚染対策ガイドライン」として指針が示されている。油類とは、ガソリン、灯油、軽油、重油等の燃料油、機械油、切削油等の潤滑油等の鉱油類をいう。)

    2.汚染のパターン

ベンゼン(C6H6)は、健康上有害な汚染物質であり、ガソリン中に1%程度含有されている。

 ガソリンの地下浸透により、ベンゼンによる土壌汚染や水質汚染を引きおこすことになる。

 一般論として、地下に浸透した汚染物質は、その汚染物質の比重、粘性、溶解度、分解性等の違いにより、地層の粒子に吸着したり、粒子の間隔に滞留したり、地下水中に溶解又は混入して地下水等の動きに沿って流動したり様々であるが、以下のようないくつかのパターンが考えられる(便宜的な分類である)。

 ①重金属(鉛、水銀等):比重が大きく溶解度や地中での拡散速度も小さいので、汚染は地表近くの土壌に吸着され一定の範囲にとどまる傾向がある。
 ②油類・石油系炭化水素(ガソリン・ベンゼン等):ガソリン(ベンゼン1%程度含む,比重=0.75)の場合では、浸透速度は比較的早く、地下水面(宙水面)に達すると非水溶性で水より軽いため、それより下部には移動せず地下水面の上層に沿って水平に広がっていく。
 ③塩素系有機化合物(トリクロロエチレン等)・揮発性有機化合物:非水溶性で比重が水より大きいトリクロロエチレン(比重=1.46)の場合では、粘性が小さいため地下浸透は非常に速い。地下水面に達すると帯水層を降下し不透水層(粘土層等)に達すると不透水層面に沿って層状(非水溶性のため)に平行に広がる傾向がある。
 ④水溶性又は懸濁性物質:水中に溶解又は分散してしまうため、地下水と一体となった挙動をとる。

 以上のパターン中、本件は②に該当する。即ち、汚染物質であるガソリン(ベンゼン)等の油類は、比較的地下浸透が早く、非水溶性で比重が1より小さいため、地下水面に到達すると、それより下部には移動せず、地下水面の表層部を地下水面に沿って水平に移動し汚染が広がっていく傾向がある。③の場合のように、地下水層深部まで汚染が広がることは少ないと考えられる。

    3.汚染原因の解釈上の留意点

 ①地下水及び地下水面の構造(水位、流速、流向等)については、土壌汚染調査とは別に地質学的な十分な調査が必要である。特に宙水(局所的な地下水)が予想される場合は、地下水本流と宙水の相互関係を考慮すべきである。
 ②地下タンク等を掘り起した後に雨水によるプールができ、更にその後を埋め戻したような場合、水面拡散により汚染が一気にプール全体に拡散する場合があり得る。
 ③タンクの残液除去に中和剤(界面活性剤)を使用した場合、中和処理を行ったガソリン(ベンゼン)等は、上記の汚染パターン④のような挙動をとる可能性を検討する余地がある。
 ④ベンゼンの沸点は80.1℃程度であるが、常温でも幾分蒸発している。長期間大気中に放置すれば、生物的な分解も加わって自然に浄化(又は稀薄化)されることは考えられる。従って、それぞれのサンプリング時期とその後の経時的要素を考察することも必要である。
 ⑤参考として、『特定有害物質を含む地下水が到達し得る「一定範囲」の考え方』((社)土壌環境センター/環境省)がある。

(大阪技術振興協会会報No.463(2015.7)掲載)