環境監査についての一考察

    1.はじめに

 最近、エコアクション21(以下EA21と略す)の審査人の資格を持つ技術士が増え、EA21地域事務局としての活動も活発化してきている。今後、さらにEA21審査人を目指す技術士もあると思われ、ISO14001審査員とは多少違った観点に立った審査が必要と思われるので、以下にEA21審査人としての留意事項について私見を書いてみた。

    2.ISO14001急成長とその後の問題点

 1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)の後、UNEPの要請を受け、ISOは1996年に国際規格ISO14001を制定した。規格が制定されると日本ではブームといえるほどのISO14001の導入が進んだ。その後、ISO14001(以下ISOと略す)を取得した国内の組織体は、これまでに約3万件にのぼる。

 しかし、最近ISOは頭打ちの傾向が続いており、認証を取得したにもかかわらず、思っていたようなメリットが生み出せず、経営に生かしきれずに登録を返上するような組織(企業や自治体等)が出始めている。自治体等では、ISOを返上し、過去のノウハウを踏まえ外部の監査員の参加を得て独自で内部監査をおこない環境監査適合を宣言する方法を取り始めたところもある。この背景には色々の理由があるが、下記のような理由によるものが多い

1)審査登録、維持、コンサル費用が相対的に高額であること。
2)マネジメントシステムは、環境のみならず、品質、安全、労働衛生、情報管理等があるが統合的な管理、運用に未だ問題点が多い。
3)審査のための審査になり、受審者に役立つ審査ができていないことへの不満。
4)紙・ごみ・電気削減活動からの脱却がしきれないジレンマ。
これに対して、我が国ではISO14001以外にいくつかのマネジメントシステムがあるが、特に、EA21(環境省によるシステム)の伸びが注目されている。EA21の認証登録取得件数は、約0000件に達している。

    3.ISO14001/EA21の比較と審査人の留意点

 両者は、それぞれ特徴を持っているが、著者の目で見た対比と審査人の留意事項を以下に述べてみたい。
1)審査経費について
 EA21は、主たる受審組織の対象を中小企業においていることもあり、何といっても審査、登録、維持及びコンサル等の経費が相対的に安価であることが魅力である。一概には言えないがISOの1/5から1/10程度といわれている。
 しかし、環境省は、EA21はISOの簡易版や省略版ではないといっているが、審査の詳細については、下記に述べるようにやはり大雑把である点は否めない。
2)要求項目について
 ISOでは、項番4.1から4.6まで、18項目の要求事項があるが、EA21では、1から12までの12項目である。即ち、EA21では、一部の要求事項が推奨事項となっている。また、要求事項の文言は、極めてシンプルでISOより解釈が難しい。審査に当たっては、解説を十分に読みこなしておくことが必要である。
3)活動範囲について
 ISOでは、項番4.1でEMSの適用範囲を定め文書化することを要求している。EA21では、該当の要求項目がないが、適用範囲を明確化することは極めて重要であり、環境活動レポートには必ず明記するよう指導すべきである。
4)環境側面の抽出・評価について
 環境側面の抽出・評価は、その組織に関係する環境負荷にどういうものがあり、それぞれどの程度の大きさかを客観的に検討し、環境目的・目標の検討資料とするためのものであり、EA21では、「環境負可のチェック」、「環境取組のチェック」を一定のフォームで集計する形を取っている。ただ、この帳票をどう利用するかは、工夫が必要で目的・目標の設定との関連が明確でない場合が多いので留意が必要である。
5)環境目的・目標について
 EA21では、CO2、廃棄物及び排水(上水)についての取組みが必須であり、さすが国が策定したシステムと思うが、得てして紙・ごみ・電気的な環境目的・目標にのみ終始しがちである。ISOでは、特に必須項目はなく、”及ぼすことができる環境側面”に関連したテーマを”管理できる”ものと同等に扱うよう求めている。審査人は、このようなテーマを出来るだけ気づかせるように審査を進めるべきである。
6)環境法的要求事項の取りまとめ及び遵守評価について
 環境法規等の登録(取りまとめ)とそれらの遵守評価を記録等で確認する必要がある。
7)環境コミュニケーションについて
 EA21ではコミュニケーションというと環境活動レポートの作成でこれを必須としているが、ISOでは特に必要としない。ISOでは、内部・外部コミュニケーションとして、やや別の意味あいを持たせている。
8)内部監査について
 EA21では推奨事項とされているが、ISOでは必須であり重要視されている。ある程度以上の組織では出来るだけ実施を検討するよう推奨するべきである。
9)審査工数について
 EA21では明確な規定がないが、ISOでは極めて厳密な規定がある。即ち、業種コード、環境負荷設備の有無、従業員数(交替・夜間勤務等を考慮)等を考慮して算定される。
10)移動工数について
 EA21では明確な規定がないが、ISO審査では極めて厳密に規定されている。
11)環境管理マニュアルについて
 環境管理マニュアルの作成は、EA21、ISO共に必須ではないが、ISOではほぼ100%作成されており、下位文書(規定類、手順書等)を含めて審査対象としている。
12)環境関連文書及び記録について
 EA21では、文書と記録を一緒にして要求事項としているが、ISOではそれぞれ別に扱いそれぞれの要求事項を果たしている。
13)アドバイス/コンサルについて
 EA21では、審査時のアドバイス等を一定の条件で認められている。ISOでは審査時のコンサル的な言動は厳禁とされている。ISOが制定されたパフォーマンス向上の目的には
14)更新審査の周期について
 登録後、EA21では更新審査は2年ごと、ISOでは3年ごととなっている。
15)現場審査について
 作業現場を持つ部門審査では、机上審査と現場審査との時間的比率を1:1~3:1程度で顧慮すべきと思われる。
16)予防・是正処置及び不適合について
 EA21では、明確な要求事項になっていない。ISOでは、明確な規定がある。
17)その他:
 様式5の審査チェックリストは、各要求事項の詳細なチェック項目が記載されており、これらを全て審査すれば、かえってISOより詳細な審査を実施しなければならないことになり矛盾している。また、様式9は、改善が必要と思われる。更に、審査時に審査人は詳細な筆記レポートを提出すべきであるが、この義務を果たしていない。

    4.おわりに

 EA21とISOの審査およびコンサルは、微妙に違いがありこれを不用意に同じ方法で行なうと受審者を混乱に落としいれ不評を買う恐れがある。ISO審査員は審査機関が厳しく教育を行なっているが、EA21審査人はそれが無いため、お互いに審査手法の訓練をする場を持つことが必要と思われる。

(2009年9月記)