地震は予知できる!

書評「地震は予知できる!」
早川正士 著 KKベストセラーズ ¥1,200+税

 先月(6月号)の本誌の「編集後記」に、今年3月5日に日本技術士会近畿本部(WEB会議)で開催された著者早川氏の「地震予知は可能か?(電磁気手法を用いた地震予知)」と題した講演会に参加し、その感想を書いた。その後、同氏の掲題の著書を読んでみた。

 冒頭部分に、下記の記述がある。

 ”研究所に送信されてきたデータ(地球電磁気に関するデータ:筆者注)の数値は、あきらかに異常値を示していた。東日本大震災が発生する2011年3月11日の約1週間前、3月5日から6日にかけてのことだ。「これは大きな地震が発生する前兆ではないか。しかし・・・」。私たちは日本の陸域を震源とする大きな地震については、すでに1週間前後のスパンで地震が起きる時期を予測できるだけのデータの蓄積があった。だが日本の陸域から100km以上離れた海域を震源とする地震については、十分な知見を持っていない。しかし、悪い予感を抱きながらも、私たちはただ事態の推移を見守るしかなかった。”

 そうならなぜ、もう少し踏み込んだ対応がとれなかったのか悔やまれるが、要はこの著者の専門分野である地球電磁気による地震予知手法が、まだ「地震予報」を提供できるところまで確立されていないということであろう。

 著者は、地震電磁気学的な見地から地震予知の論拠を説明している。即ち、大きな地震が起きる前には、前兆現象として電離層擾乱が発生する。例えば、地震が起きる直前になると、普段は聴けないはすの遠方のFM放送が突然受信できるようになったりする。電離層で擾乱が起きている要因が、太陽爆発(フレア爆発)でも、雷(一時的)でも、地磁気嵐でもない場合、考えられる理由はたった一つ、大地震の前兆として電離層擾乱が起きているということだと推論できるというのである。電離層が擾乱を起こすと、電離層は通常時より数km程度降下(降下する理由はよくわかっていない)する。降下すると2地点間の電波の到達時間が短くなり、これにより伝播異常が検出できる。

 どこで起こるかは、現在全国に6ヵ所あるVLF/LF波の観測点での伝播異常を観測し、ゾーン(フレネルゾーン)を重複エリアを狭める方法で震源地を予測する。また、いつ発生するかは、過去1000件にのぼるデータの統計処理で、異常観測後約5~12日後が最も確率が高いと予測している。更に、地震規模は、VLF/LF波の平均振幅のズレ(2σ:マグニチュード5クラス、3σ:同6以上としている。因みに2012年3月5~6日に観測した振幅のズレは、4σに近かった。)で予測している。しかし、3.11の場合、外国を含めても観測点が少なく、どのエリアで地震が発生するか特定できなかったと著者は述べている。
 この方法の弱点は、①深発地震や海底地震で電磁波の伝播異常が観測できない場合、②海岸線から50km程度離れた海底を震源とする地震でデータが無い場合(洋上観測点が無い場合)等は予知が不可能で、内陸部の深度の浅い直下型地震にしか適用できない。

 また、肝心の”なぜ、地震の直前に電離層の擾乱が起きるのか”については、地殻の摩擦電気、圧電効果等により電磁波が大気中に放出されるという説やラドンガス等が大量に放出されることによる大気振動が原因の重力波説などの仮説があるが解明されていない。これら弱点や論理上の不確かさが、”科学的な根拠に乏しい”として我が国の地震学の主流から遠ざけられてきた理由なのかもしれない。

 本著ではその他に、極極超長波(ULF波)を使用した予知法の開発、地電流の変化を観測するギリシャのVAN法、中国の宏観現象(地震の前兆として起きる自然現象や動物の異常行動)などについて述べている。また、”なぜ日本は地震予知後進国になったのか?”や中長期予測しかできない地震学の限界、地質学と地震予知学の違い等についても述べている。

 本誌5月号の「ほんだな」で”日本人の知らない「地震予知」の正体(ロバート・ゲラー著)”が紹介され、その中で、「前兆現象」の存在を否定的にかかれているが、筆者は必ずしもそうは思わない。

 著者は、現在、研究予算の工面がつかないこともあり、一部のクライアントにのみ有償で予知情報を提供しているということであるが、早急に予知システムを開発し、公式予知法を確立し実績を積まなければ、広く社会から認知は得られないであろう。

 著者も述べているように、どの地震予知法もけっして完璧ではないのであり、今後は、地震のメカニズム解明はもとより、学問の派閥・学閥を超えて、真の国民・人類のための地震予知法が確立されることを願いたい。国の予算配分に関する配慮も必要と思う。

(大阪技術振興協会会報No.428(2012.8)掲載)