アルミナ製造とその廃棄物

 アルミナ(Al2O3)は、耐火物やセラミックスなど身近な材料用原料の一つであるが、同時にアルミニウム地金の製錬用原料として、所謂バイヤー法により大量に生産されてきた。しかし、1970年代のオイルショック以降、我国のバイヤープラントは、アルミ製錬用としての使命を海外にゆだね、国内では主として耐火物、研磨材、セラミックスおよび無機化学薬品等の原料としての需要を満たすために存続している。バイヤー法は、原料鉱石であるボーキサイト中の約50%をしめるアルミナ分を高温・高圧下の苛性ソーダ液で抽出する方法であるが、その際、溶解残渣として、製品アルミナの7~8割程度の通称、赤泥と呼ばれる廃棄物を排出する。

 バイヤー法による全世界のアルミナ生産量は、年間3000万トンを上回り、2千数百万トンの赤泥が排出していると推定される。我国では、アルミナ年産20万トン程度の設備が3設備程度稼動しており、アルミナ年産20万トン(以上、乾量ベース)程度の1プラントからの赤泥排出量は、スラリー量で年間50万m3程度である。

 赤泥は従来、主として土地造成のための海面埋立てに使用されてきた。しかし近年は埋立て可能な海面が減少し、環境保全のための国際条約(ロンドン条約等)により廃棄物等の海洋投入は制限または禁止される趨勢にある。

 このため、赤泥の処理や有効利用についての研究や特許出願は、国の内外を含め極めて多数にのぼる。しかし、多くの努力にもかかわらず、いずれも埋立て以外に実用化に至らないのは、次のような赤泥の特殊な物性によるものであり、有効利用しやすい製鉄における高炉滓や転炉滓と異なるところである。

①水スラリー状(300kg/m3程度)で排出されるため、乾燥コストをかけると殆どの場合、経済性がない。
②Al2O3、Fe2O3、TiO2、SiO2等を含有するが、どの含有成分も中途半端な含有量であり経済性のある成分回収が困難である。
③Na2O分(ソーダライト成分および付着苛性ソーダ)を含有しているため、窯業用途等には不向きであり、脱ソーダがネックとなる。
④大量の赤泥を一括有効利用可能な用途は極めて限定される。

 そこで当時、我国のバイヤープラントの国内存続を条件に、赤泥対策として以下の2点にしぼり込み、技術的な対応の可能性を検討した。
1)赤泥の有効利用:赤泥の大量一括利用技術の確立(炉用製銑原料)
2)赤泥発生量の削減:ボーキサイトの富化(遊選鉱と磁力選鉱)

 まず、1)の赤泥の高炉用原料への適応についてであるが、高炉へ投入される製鉄原料(鉄源およびフラックス)およびコークスは、一定の比率で投入される。これらは、微粉砕された鉄鉱石とCaO,SiO2等のフラックスを焼結・塊状化した焼結鉱またはペレットとして使用されるが、国内では主として焼結鉱が使用されドワイトロイド式焼結設備で大量生産されている。この焼結設備では、粉粒状の鉄鉱石、各種副原料および焼結のためのコークスにバインダーとしての水を散布し、ミルまたはミキサー内で混練、造粒し、コークスで自焼させて焼結鉱とする。この水分を赤泥スラリーの水分で代用しうることを、高炉メーカーで確認した。水の添加量は、いずれの場合も平均7%程度であり、日産2万トンのドワイトロイド焼結炉の場合、水分を7%添加すると仮定すると、300g/lの赤泥スラリーを約1500m3/日処理できる計算となり、アルミナ年産20万トンのバイヤープラントの赤泥スラリーのほぼ全量を一基のドワイトロイド焼結炉で有効利用できることになる。

 ただし、製鉄メーカーでのヒアリングを含む調査の結果、赤泥を高炉用の製銑原料とするためには、次の2成分を除去する必要があった。

①赤泥中のNa2O成分:高炉内の低温域に析出・蓄積して高炉の耐火物を劣化させる。
②赤泥中のAl2O3成分:焼結鉱を軟化させガス流通が不均質となり、銑鉄の品質低下を招く。また、スラグが酸性となり脱硫/脱リンが困難になる。

 ①に関しては、当時、住友化学ではバイヤー法を改良し、ソーダ原単位を従来の約1/2とすることに成功していた。この改良バイヤープロセスは、ボーキサイト中のギプサイトとカオリナイト等の苛性ソーダに対する溶解速度差を利用することにより、短時間の抽出時間でギプサイトを抽出し、可溶性シリカの抽出を抑えることによってソーダライトの生成量を削減する方法である。このプロセスにおける要素技術は、短時間抽出技術と高圧下での高速固液分離技術であるが、固液分離後に脱珪をおこなうため、赤泥からNa2O分を含むソーダライト(固体)を分離することが可能であった。

 ②に関しては、高勾配磁力選鉱法(HGMS)によってAl2O3分の除去を試みた。赤泥中の鉱物粒子は極めて微細であるため、赤泥スラリーの湿式粉砕が必要であった。赤泥中のAl2O3分を20%から最高7%にまで減少させることができたが、スペックの5%はクリアできず更に検討が必要である。しかし、生焼結鉱に対して水分が7%となるように赤泥スラリー(Al2O3:7%,300g/l)を使用した場合、計算上、焼結鉱に対するAl2O3の上昇は、0.1%程度に抑えられ、CaO添加の増量により解決可能と思われる。
 2)のボーキサイト鉱石の富化に関して、方法の詳細は省略するが、ボーキサイトの選鉱によって、赤泥となる成分を除去し、アルミナ分の品位をあげた精鉱を輸入しょうとするものである。即ち、破砕選鉱と磁力選鉱でボーキサイト中のヘマタイト等の鉄分を除去し、浮遊選鉱でカオリン、石英等のシリカ分を除去する。ボーキサイトの場合は、脈石側を浮かせた方が経済的に有利であるため、陽イオン捕収剤による逆浮選の可能性を検討した。ボーキサイト組成鉱物のジータ電位測定の結果、苛性ソーダによるpH9以上の領域での捕集剤DTAB( Dodecyl trimethyl ammonium bromide)による浮選が最も合理的であると判断した。

 以上、1)及び2)の方法は、未だ実用化されていない。高炉への赤泥の転用は、高炉メーカーの協力なくしては実現しない。しかし、省資源、省エネルギー、資源の低品位化の中で、循環型社会を念頭においた製品造りや廃棄物の循環システムを地球規模で、また産業界の壁を越えて構築する必要がある。本赤泥対策技術は、改良バイヤー法と共に、今後予想される鉱石の低品位化においても有効に活用できる技術と考える。また、中国に大量に賦存するバンド頁岩のアルミナの精製に逆浮選による選鉱技術を生かせないかと考えている。